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【種別】 人名 【初出】 超電磁砲 第53話 名前は超電磁砲第140話および心理掌握第10話(発表日同日) 【元ネタ?】 紅茶などに用いられる希少高級な茶葉の産出で有名な、台湾の阿里山 【概要】 常盤台中学の生徒。三年生。 食蜂派閥の中心メンバーの一人、 二年生の頃(昨年度)は支倉派閥に属し支倉冷理の側近を務めていた。 『超電磁砲』における大覇星祭編での初登場以来、『アストラル・バディ』や『心理掌握』にも登場しているが、 『超電磁砲』140話および『心理掌握』第10話(2022年6月28日に同日発売・更新)で明かされるまで、長年にわたって氏名は不詳のままだった。 (同様に長らく氏名不詳だった食蜂派閥の一部メンバー(紀伊・芽生)の名が、先立って『心理掌握』で明かされている) 【人物】 口元に特徴的な艶ぼくろがある少女。 髪型は、前髪を左右に分け、後ろ髪の一部を頭の後ろで束ねたハーフアップ・ロングヘア。 体育の授業などの際にはポニーテールにしている。 髪色はスクリーントーンで暗めに表現されている(アニメ『超電磁砲T』では暗い緑系)。 二年生当時(『御坂美琴一年生編』)では、本人曰く「支倉派閥の悪巧み担当」。 人の良い支倉玲理に変わって、派閥の取りまとめのための裏工作や諜報などを行っており、 本編時系列の三年生現在よりも表情や態度は険しく、時には派閥の先頭に立って敵対派閥と激しく口論することもあった。 三年生現在は、帆風潤子や口囃子早鳥とともに、食蜂操祈の側近といった立ち位置にいる。 一年前に食蜂と交わした後述の約束は履行されたのか「肩の荷」は下りているようで、二年生の頃よりも表情や態度が柔和になっている様子。 パンケーキが好物であり、『超電磁砲』と『心理掌握』どちらでも言及されている。 食蜂が機嫌を損ねたとき用なのか、秘蔵の茶葉を所有しているようだ。 【作中での行動】 『御坂美琴一年生編』(本編時系列の一年前) 4月、常盤台中学で二番目の『超能力者』になった御坂美琴の身辺調査や監視のため、 自身の判断で新入生の潔斎雪紫を美琴のルームメイトとして送り込む。 5月末~6月頭(夏服に衣替え後)、パリでのデモンストレーションに支倉が出張している間に起きた、 支倉派閥と水鏡派閥の派閥抗争では、支倉が帰国するまで彼女に代わって派閥を指揮した。 6月中、支倉がパリ帰国してすぐ、派閥抗争に関する調査を始める。 支倉が食蜂操祈・帆風潤子の二人と初接触し、阿里も同席(『超電磁砲』第140話)。 この際、阿里本人の口から氏名が明かされた。 いずれ食蜂派閥を立ち上げることがあったとしたらあなたを入れあげる、という旨の食蜂の冗談めかした誘いに対して、 阿里も冗談で、支倉が卒業したときに食蜂が自分の背を抜いていたら食蜂派閥に入る旨を告げている。 本編時系列 9月20日、『超電磁砲』における大覇星祭編の第53話(9巻)で、 御坂美琴を監視する食蜂派閥のメンバーの一員として登場。 刊行順ではこれが初登場となる。 食蜂不在の中、紀伊と芽生の監視を強行突破して行方をくらました美琴の捜索を指揮した。 (アニメ版『超電磁砲T』の同場面では他の派閥メンバーに置き換えられ、出演がカットされている) なお、大覇星祭での事件解決の後は、食蜂操祈によって、 上記の美琴の強行突破した理由が「腹を下してトイレに籠城」した旨に記憶改竄されているため、 阿里を含む食蜂派閥のメンバーたちは以後そのように認識しているものと思われる。 9月末、『アストラル・バディ』第3話(1巻)。 『大覇星祭』編以来登場がなかった食蜂派閥主要メンバーの顔見せとして再登場。 派閥活動の一環である意見交換会に参加している。 10月、『心理掌握』第1話(1巻)から再々登場。 ちょっとした意地の張り合いから、生徒会役員の友人とパンケーキの大食い競争をしてしまったことを、 食蜂たちとのお茶会の際に明かしている。 『キレる』という感情を体験したのはこの大食い競争のときが初めてだったと本人は認識しているようだ(*1)。 以後は、ひょんなことから生徒会長選挙に出馬することとなった食蜂の勝利を目指し、 食蜂操祈の側近の一人として行動する。 (なお、連載順では同時期に並行して上述の『御坂美琴一年生編』が超電磁砲で連載されており、相互にリンクしている) 11月、『禁書目録』新約11巻。 蜜蟻愛愉が食蜂を狙った事件に関連して、食蜂派閥メンバーが行動していたため、 作中本文での直接の言及はないが、阿里もこれに参加していたものと思われる。
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【種別】 魔術結社 【元ネタ】 Wikipedia- 薔薇十字団 【初出】 名前のみ一巻 【解説】 〈秘密の首領〉の1人であるアンナ=シュプレンゲルなどが所属しているとされる魔術結社。 上条と邂逅した際のインデックスが、自分を追って来ている組織の候補として挙げた。 オティヌス曰く、そこらの魔術師を捕まえて有名人を挙げてみろと質問すれば、 10本指が埋まる頃にはメイザースやサンジェルマンと並んで名前が挙がるとされる。 ウェストコットは薔薇十字のネームバリューを利用して黄金夜明(S∴M∴)を大きくしたが、 メイザースは薔薇十字を秘密主義的すぎるとして嫌っていた。
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1 不完全な静寂が延々と続く。僅かに聞こえるのは、か細い呼吸音と足音。 日の光が完全に遮断され、黒ずんだ壁に囲まれたこの部屋で一人の少年が 落ち着かない様子で、コツコツと乱れた拍子を現代的なデザインの杖で奏でながら 右往左往していた。頭頂から靴の末端まで白一色に染まっている彼は この一室では浮いて見える。 少年の名は一方通行。その整った顔からは嫌悪、焦燥の表情が絶え間なく 作り出されていた。動揺が隠せないからだろうか、寒気を感じる。 (……結果はまだ出ねェのか?) その目線の先には、少し薄汚れたベッドで眠りにつく少女があった。 少女の名は打ち止め。かつての天真爛漫で、元気を振りまく姿は 一切その様子からは想像出来ない。以前の衰弱しきった病態から抜け出せたのが せめてもの幸いだったが。 (やはり畑違いの人間じゃこの苦痛を取り除く手段はわからねェってワケか) 仮の答えを弾き出した一方通行は自分の考えを整理していく。 あのヒーロー……いや、あの『上条当麻』との再戦に破れた後、 奴が打ち止めに右手で触れた瞬間、打ち止めとエイワスの繋がりは一時 断ち切られた。少なくとも生命の危機からは辛くも逃れられたようだ。 その後二人は上条達が率いる軍用車の群から離れ、金髪碧眼の男と同行することと なった。その者はオッレルスと名乗り、打ち止めの体を検査してみようと 提案した。一瞬罠かと頭をよぎったが、例えそうだとしても、 打ち止めに害意を加えない限りは利用出来ると踏んで、一方通行はそれを承諾した。 第一、あの上条達に誘導され出会った人物だ。おそらく学園都市の傘下に属す者では無い。 そしてそのままこの建物に辿り着いた。外観からしても相当老朽化した建造物とわかる。 今、オッレルスは席を外している。おそらく別室で文献を漁っているのだろう。 (だとしても、俺のやるべき事はもう決まってる。このガキのためなら……) あの一戦から一方通行の思考はより尖っていった。今までの自分との剥離、 根源とも云うべき心の主柱の変化を自分自身でも確かに感じていた。電流が走ったかの様だった。 これまでの彼は『自分がこうあるべき』、『自分が果たさねばならない事』といった 義務感、使命感、自分勝手で自己満足的な、まるで子供が思念する目標を掲げ 動いているだけだった。あの少女が突きつけた言葉の通りに。 それだけでは結局は何も変わらない。身勝手な理想論を無理矢理描き、その実現に 走り続けるだけではこれより先に控える試練は絶対に乗り超えられない。 (だったらどォする?) ならば、『自分がなりたいもの』、『自分が本当に成し遂げたい事』と心が叫ぶ 直接な願いや直感に従えばいい。無粋な言葉で語れば、夢、などとも言おうか。 そうすればもはや心身は揺るがない。もう心がどんな残虐な所行に引き裂かれても、 体の四肢を全て捻り切られようとも、どんな痛みにも耐えられる。突き進められる。 偶然にも、この理念はあのツンツン頭の少年の行動指針と重なる一面があった。 それに気づかない一方通行だったが、その転換に確実な手応えを感じていた。 ーーそうしてその後、彼は気怠そうに、明らかに意識してふと何気なく振り向き、こう呟いた。 「で、何でオマエがここにいンだァ?」 その背後には、かつて彼の心を打ち砕いた茶髪の少女が微笑みながらちょこんと座っていた。 少女の名は番外個体。第三次製造計画によって生み出された、新たな『妹達』の一人だ。 2 「やっほう。やっとミサカの存在を受け入れてくれたね。第一位。ずっと後ろで ひたすらアピールを繰り返してた努力が実って嬉し涙が出そうだよ」 愛想を振りまく天使の様な笑顔を見せつけながら番外個体は少年に抱きつこうと迫って来る。 一方通行は溜息をつかざるを得なかった。何せ自分と打ち止めを殺しに馳せ参じたはずの 人物が、背後から吐息を吹きかけたり、体に触れて微弱な電流を流してきたりするのだ。 逆に関わりたくなくなるのが当然の反応だろう。 「あのなァ、オマエが抱えてた任務とかが頭からスッパリ抜け落ちてンならまだしも、 どうして俺の側に平然といられンだ?俺がオマエにナニやったか覚えてねェのか?」 当然の疑問をこのアバズレ少女に投げかけてみるが、その回答はまたおかしな物だった。 番外個体が、その意外と膨らみがある胸を張って答える。 「もちろん覚えてるよ。第一位がミサカのこの美顔に何度も豪打したのも、ミサカの使命も。 でもそれらの事情はこの番外個体における現在の行動には全く干渉しない」 どういうことだ?今一不透明で番外個体の本心が読み取れない。話を続けて聞くと、 「ミサカは超能力者第一位の一方通行と、ミサカネットワークの統制者である打ち止めを抹殺し その後ミサカ自身も『セレクター』によって処分されるはずだった。でも第一位の『温情』に よって偶然生き延びてしまった。破壊された『セレクター』には学園都市がミサカを監視、 制御する機関が備わっている。それが無くなった今、もはや誰もミサカを縛る事は出来ない」 『温情』という言葉に引っかかりがあった。一方通行は確かにあの瞬間だけは番外個体を救おうと した。しかしその感情と行動は、この世界への憎悪で全て吹き飛んでしまったわけだが…… 「つまり、ミサカは第一位の手によって自由になった。だからもうミサカはかつての目的を捨て、 新たに築かれた欲求に従って動く事にした」 ピクン、と一方通行の心臓が反応した。何か嫌な予感がする。 「ミサカは、あなたに興味が湧いた!」 番外個体の顔が彼の唇に触れそうになるまで近づき、そう言い放った。 「打ち止めというちっぽけな存在のために学園都市に逆らい、妹達という恨まれてもおかしくない 群衆のために奔走し続ける、論理的に考えてもおかしいあなたはもうミサカの目を釘付けにした。 だからずっと着いていく。ミサカが第一位を寸分まで理解するまで。 あ、こんな可愛いミサカを傷物にしてくれた責任も取ってもらおうかな。だからミサカの事も 大事に扱ってよ。そこで寝てるあの打ち止めの様にね!」 そう熱弁した直後にまたもや番外個体は一方通行を抱擁しようとダイブしてくる。 これは、好意からくる行動とは、違う、と思う。負の感情が芽生えやすい番外個体が ここまで自分を好くのには、どうしても違和感を感じる。自分を憎んでいたのではないのか。 ……とつい勘ぐってしまう。裏があるんじゃないか、そんな気がしてどうもこいつを 受け入れられない。うざそうにあしらってから、話題を変えた。 「そォいや俺はオマエをさんざん痛めつけたンだったな。なら何で外傷が一つも 残ってねェんだ?『肉体再生』なンざ使えるワケでもねェし、俺はそこまで 治療した覚えは無いンだが」 確かに今の番外個体は不思議な事に一方通行が負わせた傷も一切無く、健康そのものだ。 叩き折ったはずの腕の骨すら完治している。そんな状態で傷物とか言われても釈然としない。 ニヤニヤしながら、艶かしく手で全身を伝わせつつ答えてきた。 「『暗闇の五月計画』を覚えてるよね?第一位の演算パターンを元に自らの『自分だけの現実』を 最適化させる実験があったんだけど、その中には第一位のベクトル変換能力を応用して 生体電気を制御し、自分の細胞復元速度を早める能力データが残されていた。 あなたを殺す際に『書庫』にアクセスする機会があったから、それを知って流用したの。 体内の電子情報を操れるミサカなら、あなたとほぼ同じ精度で体を癒せる。 理論上なら他の妹達にも実行可能だったろうけど、大能力者であるミサカ以外は 実戦投入は無理だったかもね。そもそも絶対能力進化実験の障害になるから 知らされていなかっただけかも」 「ほォ。ちゃんと理由があったンだな。だったらこのガキも類似した事が可能なワケだ。 そいつを引用してこいつの中の異変を取り除けねェのか?」 そろそろ余興とも言える会話は打ち切るべきだろう。時間は待ってくれない。 ここで一方通行は核心に触れられるよう、また話を移行させた。番外個体も重要だが、 それより優先すべき事は山積みだ。何より打ち止めを救う可能性があるなら何でも試す必要があるからだ。 だが、番外個体は返答せずに頬をぷくーと膨らまし、そっぽを向いた。 自分より打ち止めを重く扱った事に不満があるらしい。面倒な奴だな、と思いつつ 番外個体に正誤を問おうとした瞬間、 一方通行の腹下部に重圧が掛かった。 3 この合図はここに来た、いやこの男にあった瞬間にもあった。明らかに異質な反応。 かつて一方通行が海原と接触した時に感じた物と同じだ。 オッレルス。打ち止めと一方通行(と番外個体)を迎えいれた人物だ。 胡散臭さは感じない。むしろあらゆる人生の困難を全て切り抜けてきた経験がその肌に 刻み付いているかの様だった。その威厳はそこらの一般人ではまず発揮出来ないだろう。 そんな彼が羊皮紙の束を抱えてこの部屋に飛び込んできていた。待ちわびた。 「やっとこの子を治癒する手だてを思いつき、術式を構築出来たよ。君達に説明すべきだろうから 包み隠さず話そうと思うが、いいかな?」 術式などとあまり耳に入った記憶の無い言葉を聴いた気がしたが、もはやどうでもよい。 このロシアまで渡って来た目的がやっと成就するのだ。一瞬の歓喜と焦りを感じた。 一方通行はその餌に食らいつく。 「ああ、よろしく頼む。さっさとこのガキを楽にしてやりてェからな」 「まぁ待て。その前に俺は君達の名前も抱えてる事情も完璧には把握出来てない。 順序が逆になったが、そこら辺の背景を大雑把に教えてくれ」 確かに出会ったすぐからオッレルスは検査と思案に入ってしまったせいで説明不足に なってしまった。この男の、人を救うのを優先する気質が先行したからだろうか。 とにかく解説を早く済ませて打ち止めを直して欲しかったが、 「はい!ミサカとこの人、一方通行は夫婦でこの子を助けたくてここまで来たんです」 (…………は?) 横槍が入った。いつの間にか番外個体が一方通行の片腕を抱きしめつつ懇願していた。 「学園都市の医療技術でも、ミサカとこの人の間に生まれたこの子の命を持たせられないのが わかって、どうしていいかわからなくて全国を経由してこの辺境まで行き着いたんです。 お願いです!ミサカ達はどうなってもいいから、何でもしますからこの子を苦痛から 解放してやって下さい!」 涙ぐむ仕草まで仕込んである。傍目にみれば本当に番外個体や一方通行と、打ち止めが 親子だと誤解してしまいそうな程の迫真の演技だった。 (……こ、こいつ人が黙ってりゃ嘘をペチャクチャ吐きやがって……!?) ある事無い事吹き込む番外個体のデマカセを正そうと、声を荒げようとする一方通行だったが そこで異変に気づく。 声が出ないのだ。 妙だ。まるで人為的に喉が働かなくなった感じがする。何かがおかしい。思わず番外個体の 方を向くと、オッレルスに見えないように、小悪魔的な含みを持つ笑顔を一方通行に見せつけていた。 そこで原因がわかった。こいつのせいだ。体内に残留した『シート』で一方通行の首元に 装着されている電極を強制的に誤作動させているのだ。 (な……言語機能を俺から奪いやがったのか!?器用なマネしやがって!) といっても、常識的に観察すればこんな虚言などすぐにバレる。普通は信じるワケが無い。 常人なら「いや、それはありえない」と即座に突っ込む程度のウソだ。 と、オッレルスの反応に期待する一方通行だったが、 「そうか!それは難儀だったね。大丈夫だ。君たち親子の平穏が再び訪れるよう、俺も全力を尽くすよ!」 本気で信じちゃったよこの人。そういう変人だったのか。 こんな奴に打ち止めを預けた俺が間違ってたのか。いや、馬鹿だからこそ上条はこいつを推薦したのか? 歪曲した首肯があまりにも馴染みすぎている。もう訂正するのも諦め、事態が好転するのを待つ事にした。 自分が滑稽な扱いを受けてそれで済むなら大歓迎だ。今日までもそういった色眼鏡で見られてきた。 そうしている内にオッレルスが口火を切った。 「よし。必要な情報は揃ったし、本題に戻るとしよう。……申し訳ないが、 奥さんは席を外してくれると有難い。君が娘さんを心配しているのは重々理解してる。 しかし、先に彼だけに述べておくべき事が少しだけあるんだ。短時間で済む。いいかな?」 想定外の滑り出しだった。同時に危機感が一方通行の脳裏に行き渡った。これは艱難の暗喩だ。 打ち止めの治療に何らかのデメリットがあると、暗に示している。考え過ぎであってほしい。 そうとも知らず、口車に乗せられた番外個体は意外にもすんなりと申し出を受け入れ、 「そうですか!確かに懸念が残りますけど、どうしてもと言うなら指示に従うまでです。 この子を頼みます……」 と着飾った決まり文句を漏らしながら、ドアを開けて廊下に出た。同時に妨害電波も 次第に減退していき、一方通行は平常に戻った。ここからが本番だ。固唾を飲んで、宣告を急かした。 「アイツが漏らした通り、このガキは科学の枠に留まる技術じゃどォにもならねェ。 この病状自体が学園都市の差し金で惹起したからだがな。それで俺達は奴らと反目した。 そこで『全く別の法則』とやらが必要になると聞いた。それを求めてここまで来たワケだ」 「先刻までの戯言は彼女に真実を知らせない為の詭弁だよ。混乱を招くからな。 君の抱える問題も学園都市の策謀もこの子に降り懸ってる異常の根源も承知している。 あのアレイスターの聖守護天使がこの子を踏み台にして顕現したんだろう。 正確にはミサカネットワークによってAIM拡散力場を前導させるのを 強引に打ち止めを『始動キー』として、持続させている」 一方通行は目と耳を疑った。この男は今、打ち止めの病状の原因を明かすどころか、 学園都市が抱える闇そのものの正鵠を射った。門外漢かと思いきや、一方通行以上に現状を理解している。 どこからそれほどにまで正確な情報を知り得たのか、疑問は残るが、 ならば話は早い。先程の発言に引っかかりと底知れぬ不安を感じるが、今は前に進むしかない。 「そこまで把握してンのなら、さっき口走った『治癒』も的確なンだよなァ。 だったら、ここまで焦らす必要は毛頭無ェはずだ。……何を隠してやがる?」 一番の不安材料にメスを入れた。打ち止めの『治癒』に弊害があるならば、全て排除するまでだ。 だが、その弊害についてはこの男は黙ったままだ。まさか、そこまで事態は深刻なのか? オッレルスは重い口を開いた。 「『治癒』の方法は二つある。一つは最終信号をミサカネットワークから断絶させる事だ」 何? 「聖守護天使は最終信号を『始動キー』としているが、本来なら顕現した時点でミサカネットワークを 間借りするだけでAIM拡散力場を永続的に連結し続ける事が可能だ。 しかし、どうやらアレイスターは念には念を入れて『始動キー』を常に待機状態に設定し、 万一聖守護天使が崩壊したとしても、すぐまた現世に回帰できる体制を取っているようだ。 故に最終信号に、極難解で不安定な演算を常に無意識の内に反芻させるような仕組みを植え込んだ」 つまり、エイワスとの戦闘時に奴の『核』を弾いたにも拘らず平然と復活したのは、 打ち止めに『始動キー』を埋め込まれた証拠だという事か。 それが理由。最終信号としての役割を果たすため、望んだ訳でもない不条理な重荷を背負わせ続ける。 彼女は何も悪い事をしていないのに。一人の人間なのに?どうして道具としてしか彼女を扱わない? 「……じゃァ、その仕組みを解けばいいんだろォ?どうしてこのガキをミサカネットワークから 切り離すなんて解決法が取られるんだ?」 打ち止めがミサカネットワークから外される。即ち、ミサカという大脳からの脱却とは 妹達との意識疎通がされなくなり、情報や記憶の共有が途切れる事を指す。 いや、ミサカネットワークの司令塔である彼女がいなくなれば、学園都市は同機能を持つ新たな個体を 刷新するはずだ。それか、それこそが伴う痛み、なのか? 「『始動キー』は、最終信号個人の脳だけではとても抱えきれないほどのヘッダを持つ。 つまりこの子の頭で処理出来ない部分は他の妹達に分割され、代理演算をさせるように 最終信号が上位命令文を妹達に送りつけているんだ。即ち、最終信号が上位命令文を出せない状況に なれば『始動キー』は不完全な計算式の固まりと化し、最終信号に埋め込まれた『始動キー』そのもの も自然と意味をなさなくなる。こうなれば後は学習装置で治療出来るレベルまで落ちる」 ここまで判明しているなら、問題は解決したと同義ではないか。一方通行はここでようやく 心のしがらみが和らぐのを自覚した。 しかし、現実はまだ一方通行と打ち止めを許さない。 「ミサカネットワークと最終信号を切り離すにあたって、俺の術式を施すわけだが、 ここで一つの欠点があるんだよ。最終信号の超能力を人為的に消し去る必要があるんだ」 ……つまり、科学以外の手で能力を消滅させる。 電流を操れなくなれば打ち止めはミサカネットワークと繋がらずに済む。 『全く別の法則』に乗っ取って。 それは、その結果が齎すデメリットは、 「……彼女の言語機能と計算能力を削ぎ落とす。今の君の様に、だ」 4 死角からの残酷な事実。覚悟を背負ってここまで来た。打ち止めのためなら、 自分の信念も生き様もプライドも、自己の破壊に当て嵌まる犠牲なら、それらを受け入れる覚悟を。 だが、実際の代償は覚悟だけでは足りなかった。 つまりは、打ち止めを救うなら打ち止めそのものを犠牲にしろと言っているのだ。 一方通行は嘲った。打ち止めを敵に回してでも戦う決意があろうとも、 打ち止めの属する世界をぶち殺してまで、打ち止めを守り抜く手腕が無かった自分を。 言語機能、計算能力への後遺症。その重みは苦渋を洩らすほどわかる。 一方通行本人も、あのカエル顔の医者に与えられたチョーカー型電極によって ミサカネットワークの補助を受けなければ廃人に限りなく近い存在になってしまう。 打ち止めがそうなったら?もう光は途絶える。彼女をミサカネットワークから切り離す為の処方だ。 一方通行と同じ埋め合わせは不可能。待つのは物事を楽しみに笑う彼女、 自分にだけ向けてくれる、無邪気で、バカらしくて、こっちも笑い飛ばしたくなる太陽の様な笑顔、 それらが抉りとられた灰色の世界だ。 絶望が境界線を逸脱して光の世界にまで浸食してくる。その光の中心にいるはずの打ち止めに向かって。 だが、頭の中は驚愕するほど冷静だった一方通行はどうしても拭えない考えに至っていた。 (イイじゃねェか。簡単だ。この『治癒』が終われば、少なくとも学園都市のクソったれどもは もう打ち止めを奪ったり、始末しようとはしねェはずだ。打ち止め本来の役割が白紙になるからな。 言語機能?計算能力の低下?それだけの犠牲で済むなら大満足のハッピーエンドで終幕だ) そう、自分が頷いてしまえば。もう終わるのだ。戦いも、打ち止めの災難も。 自分の脳裏に焼き切れるまで刻み付けた、打ち止めのいる光の世界を守るはずの、自分の覚悟さえも。 「どうするんだい?この『治癒』なら10分で準備できる。やるなら今しかないだろう。 学園都市にこの末路を漏洩させないためなら、ここで打ち止めの『自分だけの現実』を無くすんだ」 オッレルスが何かほざいている。学園都市?そんなものもあったっけ? 放心状態だった。だが理性はこれに従えと煩く後押ししてくる。やれ、やってしまえ。 でも、でも、それでいいのか?一方通行は自分の脳、心、魂に真義を問うた。 自分の本心。未来の夢。それは、 「ォ断りだ」 はっきりと言い放った。誰かに命令されたワケでもない。熟孝して導いた論理的に正しい結論でもない。 「……このガキの生涯まではオマエも片耳でしか聴いた事ねェだろォ?こいつはな、 本来なら本当に小せェ存在のはずだったんだ。普通に大きくなって、ダチ見つけて遊んで、 黄泉川や芳川に恋愛相談なんかして、騒がしいモンには野次馬気分で覗きにいって、 それで最後に自分から笑う。そんなどこにでもいるただのクソったれの子供でいられたはずなんだ」 一方通行は信じていた。あらゆる闇や暗躍するクソ共を駆逐しきれば、打ち止めもただの少女として 生きられる。そんな純朴な幻想を。 それが本心だった。そうしたかった。ウソは無い。本当にそうしてやると無意識に願い続けていた。 だから、引き下がれない。善人だろうが悪党だろうが関係ない。 一方通行という個人のみが持つ、譲れない思いだった。 「そいつを乱すようじゃァ、納得出来ねェンだよ。言語機能?計算能力?ンなモン捨てなくても 門は開いてゆく筈だ。もし無かったとしても、俺が学園都市最強の力で風穴開けてやる。 ……だからオマエの申し出は受けられねェ。すまなかったな」 一方通行は頭を下げた。オッレルスも打ち止めの心配の末に この『治癒』を提案したのだ。無下にはできない。本来なら人に会釈する一方通行などありえないはず。 それを実感して、オッレルスは深い笑みを浮かべて頭を上げてくれと言い、 「そう決断すると予想してたよ。そうだ。どうせ未来を切り開くのなら より輝かしい方が良いに決まってる」 未来か。 「ンじゃ、俺らはここにはもう用は無ェな。夜が更けたら出てくが、それでイイよなァ? こっちもか細いヒントを幾つか持ってるしな。そいつを手がかりに動くさ。世話になった」 「ふむ……君らしくない。少し前の要点を忘れてないか?」 少し前?第一『治癒』の壮絶さに戦慄したせいか、些細な情報を抜け落としたかもしれない。 が、ここで前の記憶を取り戻した。打ち止めを救う手段は『治癒』だけではない。それは、 「第二の手段だ。禁書目録を呪縛から解放し、彼女から完璧な治療法を聞き出すんだ」 5 禁書目録。エイワス、上条と一方通行の力の及ばぬ強者達が示した最大のヒント。ここまでの パズルのピースの欠片だけでは人名なのか、書物の集積かもわからぬ得体の知れない言葉だった。 しかし、その詳細を今一番心底から望んでいた。何しろ打ち止めの命脈に直接関与する大きな意味を持つ。 それを知っている人物が目の前にいる。あまりの衝撃に目眩が思わず走った。都合の良さに腹を抱えたい。 「学園都市に属す人間では、一部の例外を除けば意味不明としか形容出来ないだろうな。 だが『こちら側』では現在、最も着目されている存在でもある。……だからこそ手を付け難くもあるが」 「待て。オマエが言ってる禁書目録ってのはコイツと関連性はあンのか?」 と、懐から拳銃を除けて一枚の拉げた紙を引っ張りだす。それに書かれた文字列を読み取らせた。 Index-Librorum-Prohibitorum° 上条が一方通行に残した、禁書目録の意を含む単語の羅列。 これが繋がるのなら目指す道の一つが浮き彫りになる。それに対してオッレルスは賛意を感じたようだ。 「ああ。それこそが鍵だ。これは禁書目録の個人名とも言い換えられるがな。よく手に入れたな」 「個人名?超能力名じゃねェのか?」 事の拍子に乗って馬鹿げた解釈を吐いてしまったが、先刻学園都市とは関係無いと断言されたばかりだ。 それを知っていたエイワスとは何だったのか。第一上条がこんな情報を見聞きしていたのもおかしい。 科学には幾千もの知識の引出しを構えている一方通行だが、 オッレルスの言う『こちら側』への理解は素人同然だった。 だが、遂に禁忌の扉をノックしてしまった。 そして知る。掌握の手から溢れ出かねない、かつて所属していた世界を外藩へと退かせる智識を。 切れ筋の跡が辛うじて見受けられるオッレルスの唇から発せられる『こちら側』の世界の概要。 それは一方通行が心得る既知の常識とは、あまりにも懸け離れた物だった。 天地が反転したのか、と忌まわしい錯覚が一方通行の全身を張り巡る。理屈はわかる。道理は通ってる。 むしろこの説明によって埋没する疑問の方が圧倒的に多い。 打ち止めを侵したウィルスの名称『ANGEL』、海原に感じた重圧、 垣根帝督の最後の呟き、エイワスの現出、 偶然回収した羊皮紙、襲撃者達の氷撃を『反射』した時に生じた七色の光。 あの黒い翼が発現した原因。 科学の枠、いや学園都市がひた隠しにした未知の現象全てに納得がいく。 「は、はは」 笑いが止まらない。白く、白皙し、白禍した一方通行は、自らを白痴と罵った。 学園都市最強の超能力者の頂点に君臨する彼は、天上から見下ろせば無知無学な赤子同然だったのだ。 気付くチャンスなら今日に至るまであった筈なのに。 例えば土御門や海原が稀に自分の能力や認識を語る時にも魔術、の一言が混じっていた。 彼らは俺を裏で笑っていたのか?闇を喰らい闇に生きるとほざいても真の闇を知らない愚か者だと。 『グループ』に在籍していたあの時期に問いつめれば、彼らも禁書目録について話しただろうか。 禁書目録。求めて探して掴み取った情報はとても簡素な物だった。 10万3000冊の魔導書、『原典』の知識を一字一句正確に記憶する少女。 インデックスと自称し、白い修道服(『歩く教会』と言うらしい)を纏うシスターだという。 (インデックス……?聞き覚えがあンのは記憶違いか?) 衝撃を無理矢理押し込めて、大雑把な追想を行うと答えは自ずと出た。 ハンバーガーを食い漁り、恩返しを勘違いし、 『一字一句正確に』バッテリーの正式名称を復唱したあの修道女か。 嘲笑した反動だろうか、今度は愉快な苦笑が芽生えて、あんな近くに鍵があった情実が馬鹿らしくなった。 だったら、そいつの頭根っこを引っ張ってでも打ち止めの治療法を教示してもらおうかと 思った境に、今度は世界情勢の現状にまで話が進んだ。どうやらそう簡単に聞き出せる状況でないらしい。 「今、禁書目録は自己制御を奪われ、イギリスの聖ジョージ大聖堂に隔離されているとの事だ。 呪縛を解くには彼女の意識を操作する遠隔制御霊装を破壊するしかない」 「つまりはその霊装とやらを保有してやがる外道を微塵に料理しちまえばいいワケか」 「だが、その外道もそれ相応の実力者だ。現時点でそいつを打破しようと動く一派も尽力しているが、 どうも成功にまでは至らないようだ。右方のフィアンマ、今は名前だけ知っていればいいだろう」 なるほどね、と頭のメモに書き殴っておく。面倒な道程が待ち構えているのには腹が立つが、 一方通行の気はむしろ晴れていた。目的が一筋に限られて、気分が高揚してくる。 「まァ、ヤル事山積みだっつーのもこの世の尋常なンだろォな。そいつが『原典』とかいう 雑誌の立ち読みにどんな魅力を感じてンのにもカスっぱちな興味があるが、戦争引き起こす代償とは 釣り合わねェ。ガキ救ったら世界も平和になりましたとか爆笑モンだな」 久々に冗談を走らせる余裕が出来た。それでも本筋は変わらない。 打ち止めのいる光の世界、それを乱す奴なら率先して潰してやる。 あのシスターも、そこにいるべき人に決まってる。 だったら両方に救済の手を差し伸べるのが一方通行の生き様だ。 「そのフィアンマっておめでた野郎のいる場所を探すのがまず第一歩か」 「そうだな。だがもう夜も遅い。明日まで待てるか?」 短時間で済むと番外個体に嘘をついたが、確かに太陽が頭を何時出してもおかしくない時間になっていた。 仕方ない、か。とドアを抜けて廊下まで歩き番外個体の様子を確認したら、 壁に凭れながら寝ていた。緊張感の無い奴だと思いつつも、自室に戻るオッレルスを見届けながら 毛布を掛けてやった。 「……風邪でも引いたら即置き去りにすンぞ」 と苦言を洩らしても、本当は連れて行くつもりでいた。息が浅い。まだ睡眠に入ったばっかりだ。 自分なりに話を聴いて、役に立ちたかったのかもしれない。少しこいつへの抵抗感が払拭された気がした。 一方通行自身もベッドに横たわる打ち止めを視界に入れつつ、徐々に微睡む眠気に従っていった。 5.5 今買ってるコーヒーに飽きた。最後の一滴が舌に潤いと苦さを与えた際にそう確信した。 ソファーに横たわっていた一方通行は今飲んでいた飲料の空き缶をゴミ箱に投げ捨て、 床に倒してあった現代的なデザインの杖を地面と垂直に立てて直立し、玄関へと向かった。 刺激的な匂いが鼻に付く。寂れていた筈のキッチンは今や選抜きされた食材と 使い込んだ調理具が並んでいる。それらを手に取り料理を進める茶色の毛髪の女性を横目に見つつ 外へ出た。近所のコンビ二に新商品のコーヒーが入荷した筈だ。 「堅苦しくてタマンねェな」 ジジ臭い文句を呟きつつ杖をついて前進する。晴天で日光が眩しい。紫外線を反射しようが目に焼き付く。 しばらく歩くと横道から誰かが飛び出してきた。無意味と知りつつも条件反射で電極のスイッチを入れる。 右手で触れられた彼は『反射』が適用しているにも拘らず、比重に耐えられずに横倒しになった。 杖がガシャンと鉄骨が落下したような不快音を放ちつつ地面に転がった。 接触した男がそれを拾い上げ、テカってしょうがない笑顔を浮かべつつ一方通行に手渡す。 「いやー義兄さん、マジですいません。この『御坂』当麻と不幸を共有しちゃうのも嫌ですかねぇ?」 ツンツン頭の男は学園都市最強の怪物だった彼に軽口を叩く。ハァ?と一方通行は口が開いてしまう。 「オマエを義弟と認めた覚えが無い」 「あっー!この人、未だにツンツン態度が途切れてない!俺そんなに嫌われてるの!?」 能力使用モードを解除しながら再びコンビ二を目指す。関わったら負けだ。 「いや、でも口を訊いてくれるだけ有難いかなーとも思うワケですよ。最初は顔合わせたら ちゃぶ台やら電灯をぶん投げられちゃって、もうこの人俺との姻戚関係を人生の汚点と考えてるんじゃ ないかと思う度に涙が滝の如く噴出して……って無視ですか!?耳ほじってるし!」 足が自然と早くなる。時間の無駄は所詮損だ。男はそれからも「これはもうDVの域だよ……」とか 「家内に相談しようかな……」などと呟いている。絡んでほしくて仕方ないようだ。 心底怒りを込めて真正面に立って怒鳴った。 「あのなァ!何度も繰り返すが、俺と同居してンのはあくまで妹達であって、オマエの家庭とは 何の接点もねェンだよォ!俺はオマエの義兄じゃねェ!親戚面してンじゃねェぞコラ!」 が、御坂当麻は真っ向から向かい合って、 「そんなに恥ずかしい事じゃないって俺も何度も言ってるじゃないか!妹達も美琴の『妹』に かわりないだろ!?だったら家族だと誇って当たり前だ!血?体裁?まだそんなの気にしてるのか!?」 言い合うとすぐこれだ。こっちが口火を切っても、必ずペースを奪われる。 「そりゃ過去にも色々あったさ!でも大切なのは俺達が勝ち取った『今』だろ!手を取り合って 助け合わなきゃ、また昔みたいな争いになっちゃうだろ!?第一、いがみ合ってるのは俺と 義兄さんだけじゃないか!」 「だからその義兄さんってのをやめろっつってンだよォ!」 あっという間にヒートアップする二人。その内に民衆が集まってきてザワザワとひしめき合う。 それに一足先に気付いた一方通行は嫌々矛を鞘に戻し、周りを睨んで人を払った。 今度こそコーヒーを買いに行こう。とまた歩行を始めると、 「第一位~!お財布忘れてるよ~!」 「またあの人と言い争ってるし!いい加減、過去は水に流して欲しいってミサカはミサカは御坂家の 安穏をもう一度祈ってみたり!」 声域が全く同一かつ、一方通行の『嫁と娘』が夏に見合った服装を靡かせながら坂道を駆けて来る。 顎が外れそうになるのを空いた左手で押さえつつ、ハァ、と重い、重ーい溜息を深く吐いた。 その様子を確認した当麻が二人の助力を期待しつつ、状況の一変を狙う。 「あ、義兄さんお金持ってないんですね?だったら俺がタダで貸しますよ! 財布持ってきてくれた二人には悪いけど、ここは義兄弟の親睦を深めるという大義名分に乗っ取ってど」 「なにそれ!気の使い方にも善悪があるって力説してたのあなたじゃん!ってミサカはミサカは 言動の整合性にツッコミを入れてみたり!」 「うむ、でもミサカはあなたの作戦は意外と的確だと言わざるを得ない。 金の切れ目が縁の切れ目なら、金の繋がりは縁の安寧だとも言えるよね!」 「……オマエらそこまでして俺を懐柔させたいワケか?逆に癇癪玉が破裂しそォだぞ……?」 正直さを追求して、ついうっかり文句を滑らせたら、かえって三人の説得がエスカレートした。 「また怒って破壊活動か!?俺にあたるのは良いけど周辺への被害、いや、自分の保守のために ミサカ達の思いをこれ以上無下にしようっていうなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」 「この人は悪くないし、あなたを一番心配しているのはこの人なんだよって客観性を捨てて 涙を浮かべてみたり……ってミサカはミサカは本気で悲しみを背負ってみる」 「第一位は素直になってほしいな。ミサカは知ってるよ?この人が仕事でヘマした時も 第一位がフォローに回って、謝りの電話を代わりに深夜にかけ続けたのを。 本当は家族として認めてるんだよね?」 あのな、と本心を述べようとさすがに思い、ただ俺は義兄さんと呼ばれるのに羞恥心を感じているだけで 普通に一方通行と言い換えて欲しいだけなんだ、といったニュアンスを伝えようとしたら、 「……ほぉおー。どうやらまたこの二人にお灸を据える必要があるようねぇ……?」 『御坂』当麻、打ち止め、番外個体の背後から、重圧を超越した色濃い気配が二つ飛来してきた。 三人の動きがビクゥ!と石像の如く静止する。そしてすぐグダダダダと鐘の様に小刻みに振動していった。 「これ以上おいたが過ぎるようなら、即刻断罪を執行しますとミサカは最後の警告を腹黒く押し通ります」 一方通行だけがその鬼気迫る激情を直視した。あいつの恐妻とその姉妹が 正に世界の終焉を開闢させる瞬間を。歯が小刻みにガタガタ鳴る。 『反射』を展開しても耐えられるかどうかわからない攻撃を察知して、 一方通行はただただ汗と血の匂いに怯えるが故、底知れぬ恐怖に震える指先をスイッチに持って行った。
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【種別】 アニメ・とある科学の超電磁砲シリーズ 【解説】 『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』等で知られる長井龍雪監督が、 自身の作風に拘った結果生まれた現象。 原作と乖離した捩れがもたらした異空間。 氏の持論として「作品(原作)のいいところ、面白い部分を引き出そうと心懸ける」とあるが、 『超電磁砲』の場合、氏の思う超電磁砲キャラ像と原作キャラ像に対する乖離が顕著で、 いわゆる「青春キャラ」としての魅力を引き出そうとするあまり、 原作鎌池氏&冬川氏の持つ展開の速さや熱さを脇に置いてでも、 超電磁砲キャラの人情話に比重を掛け、多くの尺を割きつつ、 氏独自の世界を押し通した展開を続けることから、スレ内にて誰言うとも無く発生した単語。 「アニレーは禁書原作とも冬川超電磁砲とも違うから」と完全に区別する意味もある。
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1. 【種別】 魔術 【元ネタ】 ラテン語で『Ex voto』と書き、『(願のかなったお祝いの)』奉納物を指す。 イタリア語でも『Ex voto』で通じる。 【初出】 二十二巻 超電磁砲SS2でも登場 【解説】 歴史上の守護聖人に代願する事で、 第三者を迂回して『神の子』へ要求を伝え、奇跡を起こしやすくする手法。 代願が叶った証として、 守護聖人の聖壇へ代願に関連する対価を奉納することで儀式は終了する。 アニェーゼ部隊のシスター達が得意とする術式であり、 日本の願掛けやまじないのように「治して欲しい部分」の模型を教会に奉納して祈る。 原理としては偶像の理論に属する回復魔術。 彼女らはロシアの大地に訪れた際に、要救助者を助けるためにこの術式を展開。 『神の子』の産着と飼い葉桶の理論を応用して大規模なシェルターを建造した。 その場にある魔術的に意味のある記号を組み合わせ、簡素なものでも大きな効果を得ることが狙い。 彼女達が「シェルター」と呼んでいるものは、 具体的には木の骨組みと白い布を組み合わせたテントのようなものに過ぎないが、 それでも普通に組み上げるならば、とても数秒から数十秒で組みあがるものではない。 魔術的知識の無い兵士から見れば、 バネ仕掛けの玩具が自動的に物凄い速さで展開されていくように見えるらしい。 2. 【種別】 魔術 【解説】 カリーチェが使用する術式。 アニェーゼ達は(建造するシェルターの形をした)模型を納めたが、 カリーチェの場合は『代願内容を記した羊皮紙』を奉納物に指定。 レッサーの見立てではロシア系結社の手法でイコンにも対応させていたようだ。 聖油を詰めたボールペンや文房具を媒介に発動し、 術式が執行されると虚空から羊皮紙が銃器の空薬莢のように排出される。 羊皮紙には代願内容が記載されている関係上、 敵対魔術師に羊皮紙の内容を見られると、術式を逆算されてしまう可能性があるのが欠点。
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「……なんかお前の顔見るたびに厄介事に巻き込まれてる気がするんだけどそいつは上条さんの気のせいだったりするんでしょうかねステイル君」 「心外だね。君が勝手に首を突っ込んでくるだけだろう。で、今回のあらましだが」 「やっぱりかよ! やっぱりなのかよ!」 「シェリー=クロムウェルが“とある魔導書”の原典を手に入れてね。その解読のためにあの子をロンドンに連れて行くことになった」 「……はい?」 「で、道中の便利な盾として君を貸すと学園都市が申し出てくれてね。そういうわけだから三十分以内に荷造りをしてくれ」 「俺は盾かよ! てか初の海外旅行が魔術がらみですかー!」 「えーと、俺にはただの汚い紙切れにしか見えないんだけど、それってそんなにすげーもんなのか?」 「あんまり直視しない方がいいわよ。万が一汚染されたら廃人になるから」 「ひゃっほうそいつを先に言えちくしょう!」 「召喚の基本陣をヘブライ語とエノク語の二重結界で括ってる。術式の内容は錬金の悪魔ザガンの召喚みたいだけど……これって、まさか」 「そうよ、禁書目録。これは『赤の書』の一ページ」 「レッドブック? 絶滅危惧種のデータリストか?」 「……とうまは知らないかもしれないけど、赤の書っていうのは伝説の魔導書なんだよ」 「ああ、前の『法の書』とかみたいなもんか。でも一ページってのはしょぼくないか?」 「ううん。本物の『赤の書』なら一ページでも『ソロモンの小さな鍵』が紙屑になるほどの価値があるんだよ。『赤の書』は写本が存在しない、実在さえ疑われていたものなんだから」 「まあ、そうよね。信じるのが馬鹿らしいわ。悪魔ベルゼブブが人間を堕落させるために自ら執筆した魔導書なんて、ね」 「……誰だ、てめェ」 「素晴らしい。クシエルの霧の中で意識を保つとは。君はこの手の魔術に耐性があるようだな。私は才能のある若者が好きでね。赤の書とその少女を置いて立ち去れば、君には手出しをしなくてすむんだが、どうかな?」 「ふざけんな!」 「そうか。残念だ。それでは君を打倒して、頂くとしよう」 「つまり、俺にもあっちに行ってこいってことか」 「ふむ。アレに幻想殺しが潰されるのは少々困るからな。せいぜい守ってやるといい」 「……あの魔術師が誰なのか知ってるのか、アレイスター」 「ああ。――私の息子だ」 「私のエセルドレーダは足止めもできないほど無能ではないよ。悪魔ベルゼブブは既に召喚されている。ここに、私の中に」 「……それで、何をするつもりなんだ?」 「無粋なことを訊く。知識の収集こそが目的であって、それで何をするかなんて二の次さ。切手のコレクターがコレクションで手紙を出すかい?」 「……そうか。そんなことのために、人体実験を繰り返してたってのか。それなら俺は、テメェのそのふざけた幻想を――ぶち殺す!」
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【種別】 特殊能力 【元ネタ】 World Rejecter =「世界を拒絶する者」 【初出】 新約十三巻 ●目次 【概要】 【効果・特性】 【弱点】 【正体】 【謎?】 【参照】 【概要】 上里翔流の右手に宿っていた力。 木原唯一に奪われてしまっていたが、上里勢力により取り返された。 現在は右手を腕から切り離した状態のまま、上里がクーラーボックスに入れて保管している。 対象を『新天地』と呼ばれる異世界へ追放し、その存在を現世から抹消し事実上の死を与える。 魔術師(魔神)達の、今ある世界を諦めたい、旅立ちたいという幻想が生んだ力であり、 上条当麻の右手に宿る幻想殺しと同質にして対極の力だとされている。 理想送りが上里へ宿ったのは、11月の上旬。第三次世界大戦が終結し、グレムリンの行動が表面化し始めた頃。 彼が明確に自分の力と認識したのは、上条との邂逅の2、3日前。サンジェルマンとの一件が発生していた時期である。 理想送りは幻想殺しと同じく、魂の輝きに惹かれ、上里には宿るべくして宿ったと推測されているが、 上里本人は魔神達の身勝手な願望を押し付けられ、 その結果として自分の運命や自分に関わった少女達の自由を歪めたキッカケであると解釈している。 理想送りで送られる『新天地』については、 上里による暫定的な説明として、フィルムのコマ数の例え話がある。 曰く「世界はどこまで広がれるか」という問題に対し、容量の限界を100%と定義すると、 人の意識の中で構築された世界は100%の内の、ほんの20%~30%だけでしかない。 そのため、新天地はその残った空き容量で構成されている… とのこと。 故に、所謂「平行世界・パラレルワールド」の類や、位相とはまた違うものである。 しかし、上里が如何にしてこの新天地にまつわる、作中世界の構造に関する要領を得たのかは不明である。 【効果・特性】 発動にはいくつかの条件を満たす必要がある。 一つ目に、使用時に「新たな天地を望むか」というワードを、対象に対して投げかけること。 もっとも無言で消している場面もあるため、小声、もしくは心の中で言っても認められる様子。 また、脳幹が操る多種多様な兵器による長時間に渡る砲撃を消し続けたりしているため、 一度宣言すればいちいち言わなくても持続し、武器種が違っても製作者が同じなら同一カウントするくらいの融通は利くようである。 二つ目は、対象が矛盾、対立する願望、つまり「今の世界に執着しながら別の世界を求める意思」を持っていること。 上里はこれを『願望の重複』と呼んでおり、発動条件の中で最も大きなウェイトを占める。 例えば「恋人と幸せになりたい、でもハーレムは崩したくない」といったような、 今ある世界にしがみつきながら同時に破滅願望も抱えている人間を能力の対象とする事ができる。 つまり「一つのブレない意思」を持ち続ける者には効果を発揮しない。 例えばパトリシアは「命を賭けてでも姉を救う」という強い信念の為に影響を受けず、 木原として揺るぎない信念を持っていた木原脳幹も効果を受けなかった。 ...とされているが、この基準はかなり曖昧で、一時の迷い、価値観の変化すらも「願望の重複」判定されてしまう。 つまりこの能力を不確定要素なく完全に無効化するためには、 「ブレない意思」をいかなる状況においても一切変えずに死ぬまで貫き続けることを要求される。 逆にブレない意思を保つなら、その内容や善悪は問われない。 また理想送りは、『願望の重複』を持つ者が作った物品にも効果を発揮する。 作中では石鹸の泡、風力発電のプロペラ、グラウンドの土砂といったありふれたものから、 脳幹が使用した対魔術式駆動鎧とそこから放たれた攻撃、 さらにはネフテュスの作り出した位相までも消し去った。 (位相は概念的な存在であるが、同時に実体を持った世界でもあるため対象にできたと思われる。 グラウンドの土砂は整備した人の意思か、土を生み出した存在の意思どちらをカウントしたのかは不明) またアレイスターが上里の動向を把握していなかったことから、滞空回線も消し去っていた可能性がある。 効果範囲も幻想殺しとは異なり、右手そのものではなく右手の作る影が効果の起点となっている。 そのため使用された対象は、影に吸い込まれるように消えていく。 光量や光源の角度を変化させれば、影絵の要領で照準を調節でき、 密着部分には影が生じるため、幻想殺しと同じように直接触れる事でも発動できる。 なお幻想殺しと直接衝突した場合、理想送りの効果が優先される。 しかし実際には後述の弱点があるため、幻想殺しを吹き飛ばした直後、その奥にあったモノに襲われて返り討ちに遭っている。 また、使用者本人の意思で『新天地』に送った存在を、右手から自在に現世に呼び戻せる...と思われていたが、 これは上里のトリックによるブラフだった。 その性能故、地の文では『究極の一撃』と評されており、 条件さえ揃えば幻想殺しや「神」すらも消し飛ばすこの異能は、「攻撃力」に関してはほぼ右に並ぶものは無い。 木原唯一は「質量保存の法則も相対性理論もぶち抜いている」 「何故原子崩壊に伴う大爆発が起こらないのか不思議でならないレベル」とコメントしている。 【弱点】 強力な能力ではあるが、幻想殺し同様弱点も多い。 まず、効果範囲が右手の作る影のみと狭いこと。 右手のみの幻想殺しと比べれば遥かにマシだが、 やはり多方向・遠距離からの攻撃や高速機動には対応しづらい。 また影自体に特殊な効果はないので、間に障害物を置けば影を遮れるし、 能力によっては影を逸らして無力化されてしまう。 次に、発動にタイムラグがあること。 まず使用のために発声が必要なため、不意打ちには無力。 乱戦では対象を変えるたびに発声分の遅れが生じる。 また、能力自体にも「表層から深層へと順に作用する」特性があり、消す際に僅かなタイムラグがある。 そのため上条の「幻想殺しとその奥の存在」、パトリシアの「本人とサンプル=ショゴス」のような、 複数の存在が完全に重なっている対象の場合は、消すと同時に重なった存在による攻撃を素通ししてしまうことになる。 最後に最大の欠点として、 『願望の重複』が有ると判断すれば、所有者をも新天地に飛ばしてしまうこと。 実際魔神への復讐に対し疑問を持った上里は、右手を除き新天地に送られてしまっている。 その為、所有者自身もブレない意思を持ち続けることを要求される。 なお、外部からのデメリットはもたらさない点、 能力自身が持ち主に牙を剥くという点で、 欠点すらも幻想殺しと対照的となっている。 【正体】 ネフテュスの仮説によれば、 上条当麻が魔神全体を救う道から外れて、オティヌス個人の『理解者』になってしまったのが原因で発生した能力。 「幻想殺しにすがり続けても安心は得られない」 と真のグレムリンの魔神達が無意識下で思ってしまったことで、それに代わる力の出現を願ったために上里の右手に宿ったと考えられる。 「あらゆる魔術師の夢」とされる幻想殺しへの思いがこうも簡単に右往左往してしまうのは、 魔術業界の勢力は99.9%魔神が占めており、数だけなら少ないが、 一人一人の力が桁違い過ぎて人間の魔術サイドが占める割合など髪の先にも満たないから、らしい。 【謎?】 幻想殺しには「上条当麻の右手にのみ幻想殺しが宿る」 というルールに基づき、右腕を損傷したり、または切り落とされるなどした時に、 破損した右腕周辺を再生させ、肉体から離された右手から力を失わせる、などのセキュリティのようなものが存在する。 しかし作中で上里の右手首を切断され、木原唯一に理想送りを奪われた際には、 上里の右手が再生することはなく、奪われた右手から理想送りの力が失われることもなかった。 この時唯一はサンジェルマンウィルスを用いて、奪った右手を「自分の右手である」と認識させていたので、 自己欺瞞によってセキュリティの抜け穴を掻い潜り、幻想殺しのようにならなかった可能性がある。 そもそも理想送りに幻想殺しのようなセキュリティルーチンが存在するのか、 あるいは存在しても理想送りが上里を所有者として品定めしている段階だったため適用されなかったのか、 いずれにしろ幻想殺しよりも事例が少ないため不確かなことも多い。 ただし、これは唯一が裏技を用いていたが故の事態であり、もしも唯一が奪った上里の右手を正しく「他者の右手である」と 認識した上で振るっていた場合には、幻想殺しよろしくセキュリティが作動したかも知れないという 逆説的な推測が成り立つのも事実である。 【参照】 →禁書世界の時間論
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三沢塾。 そのビルの内部にある、校長室というプレートの下がった部屋。 豪華だが品のない内装をしたその部屋の奧には、校長が座るのだろう、黒壇と黒革の座席のセットが鎮座している。 その、黒壇の前に。 およそこの部屋の雰囲気にそぐわないものがあった。 丸テーブルと、向かい合って置かれた二つの腰掛け。 真っ白いそれらには、腕のある職人が彫ったのだろう、精密で美しい西洋風の模様が刻まれており、周囲の成金趣味丸出しの調度品とは一線を画している。 そして、カフェテリアから丸ごと抜き出してきたかのようなそのティーテーブルの一席に、 「…………………………」 垣根帝督は憮然とした表情をして座っていた。 「断然」 そんな垣根に、部屋の隅にて、薬缶の火加減を見ながら、アウレオルス=イザードが声をかける。 「我としては珈琲より紅茶の方が好みなのだが、貴様はどうだ? 珈琲を、というのならわざわざ入れてやらんこともないが、味は保証せん」 「……どっちも要らねぇよ」 「では紅茶だな」 「………………」 アウレオルスは、ティーテーブルと似た意匠のポットに茶葉を入れ、薬缶の湯を注ぐ。 しばらく蒸らしてから、ポットと同じ模様のティーカップを2つ用意し、それぞれにポットから香り高い紅茶を淹れると、そのうちの一つを垣根帝督の前に、もう一つを対面の席に、砂糖やミルクのセットを載せた盆をその中間に置いてから、自身は垣根の対面に設置された席に座る。 そして―― 「突然」 湯気を立てる紅茶をストレートのまま一口飲み、 「まずは、何から話してもらうか」 これから茶話でもしようかという口振りで、アウレオルスは垣根に問いかけた。 「武装解除せよ」 垣根に剣を突きつけられた体勢のまま、アウレオルスが厳かに命令した。 「は?何言ってやがん……!?」 あまりに場違いなその発言に、呆れた垣根が言葉を言い切る前に、変化は訪れた。 垣根の身体が意志を離れて勝手に動き、自身の持っていた剣を手放し、さらに右手に装着していた籠手まで抜き取って地面に捨ててしまったのだ。 ――アウレオルスの、言葉の通りに。 (なんだこりゃ!? 精神……いや、肉体を操作する能力か?) 垣根が逡巡する間に、アウレオルスはスーツのポケットから太い鍼を一本取り出し、自身の頸に突き刺す。 「ハッ、動機付けってか? 不便だなぁオイ。能力は成る程トリッキーだが、そいつはまんま弱点だぜ!」 相手の『言葉』に怯まず、新たな『未元物質』を作り出そうとする垣根。 しかし―― 「一切の攻撃行動を禁止」 鍼を地面に放りながらアウレオルスが一言呟くと、 「んなっ……!?」 垣根が頭の中で組んでいた『未元物質』の数式が、一瞬にして瓦解した。 (馬鹿な……精神にも干渉出来んのか?) 何度組み直そうと、『未元物質』は数式の途中で崩壊する。 (だったら、直接殴りに行ってやろうじゃねぇかよ!) 思い、足に力を入れる垣根だったが、 「くっそ……」 まるで床に縫いつけられたかのように両足がその場から動かない。 (マジで攻撃が禁止されたってのか? ――野郎の言葉通りに) 額から嫌な汗が一筋流れる。 アウレオルスはそんな垣根の目の前に悠々と近づいてくる。 「当然。貴様を一度殺し、記憶を消去した上で結界の外へ捨て置く……ダミーが出来なかったそれを、我がすることは可能であるし、容易である。しかし、貴様のダミーを倒したその能力に興味が湧いた。断然。殺すよりは、茶でも沸かして語り合った方が面白そうである」 自分のことを殺すと宣言した人間に対して、アウレオルスは突拍子もないことを告げる。 「はぁ? 誰がテメェなんぞと一緒に仲良くお茶しようって? フザケんじゃねぇぞ」 「全然。貴様の意見など聞いていない。――我について来い」 「っ!!」 アウレオルスの言葉に素直に従い、歩き出す垣根の身体。 それを疎ましく、気味悪く思いながらも、 (くそっ、訳がわかんねぇぞ!?) 垣根に抵抗する術はなく、アウレオルスの後に続いて階上へ上っていったのだった。 「あぁ? テメェに話すことなんざ一つもねぇよ、アウレオルス=イザード」 垣根は出された紅茶に手さえも触れず、アウレオルスの問いを乱暴に撥ね除ける。 「そうだな、まずはその特異な能力について教えてもらおう」 「だーかーらーよ―」 「何度も言おう。貴様の意見など聞いていない。――我の質問に対して、一切の虚偽なく返答せよ」 「『未元物質』。この世にもとより存在しない物質を生み出し、操作する能力だ………………っ!?」 勝手にしゃべり始めた自分の口に驚愕する垣根に対して、アウレオルスは涼しい顔でその内容を吟味する。 「この世に存在しない、か。超能力とやらの仕組みは知らぬし、興味もないが……自然、そのような物質があるならば我の『リメン=マグナ』が破られることもあろう。だが、フン。その程度か。ならばいくらでも対処の仕様がある、つまらぬ能力だ。憮然。生かしてここに連れてくるだけの価値すらなかったやもしれぬな」 「テメ、言わせておけば……」 「まぁいい。次の質問だ。或いは、本来ならばこちらを先にすべきなのかもしれぬが……貴様、名は?」 「垣根帝督」 「所属」 「先進教育局、木原研究所」 アウレオルスの問いにスムーズに答えていく自分の口に苛立ちを感じるも、垣根にはどうすることも出来ない。 「ならば、目的は?」 ――どのような仕組みかはわからない。 だが自分はアウレオルスの言葉の通り、彼の質問には正直に答えることしか許されていないらしい。 故に垣根は、自らがここに来た『目的』を嘘偽りなく答えた。 「姫垣を――妹を守るためだ」 これが垣根でなかったなら、雇われたから、金のため、異分子の排除――いくらでも他の答えが出てきただろう。 しかし、垣根の、垣根帝督という人間の『目的』とは、ただひたすら垣根姫垣に集約される――それこそ、その他のあらゆることはそれに連なる『手段』でしかないように。 だからこそ、垣根帝督はこれ以外に答えを持たない。 「……………………………ほぅ」 垣根の答えを聞いた瞬間、アウレオルスの声音が変わった。 『未元物質』に対する興味が失せた後、平坦になっていたそれが、最初以上の好奇心を窺わせる色に変わったのだ。 「妹を守る、か。――詳しく話せ」 貴様の生に興味が湧いた。 そう付け足すアウレオルスの表情に、垣根は先程までは見えなかった何かを垣間見た気がした。 それはおそらく――人間らしさ、と呼ばれるものだったのだろう。 「足りんな」 垣根から全てを聞いた後。 アウレオルスの発した第一声はそれだった。 「…………テメェ、人にさんざしゃべらせといて、まだ聞き足りねぇってのか?」 もう諦めた面もあるのだろう、垣根は自分の前に置かれているすっかり冷めた紅茶を一気に飲み干して、喉を潤してから言う。 「全然。そうではない。足りぬのは貴様の覚悟の方だ。貴様が真に妹の平穏を、救済を望むのであれば、貴様の覚悟はまるで足りん」 「……んだと? どういう意味だテメェ」 「敢然。垣根姫垣のために、それ以外の全てを利用し、切り捨て、敵に回すだけの覚悟。何もかもを――或いは自身の身さえも、彼女のための犠牲に強いる覚悟のことだ」 「ぁ? だから俺は――」 「ならば何故、貴様は姫神秋沙を差し出せという木原幻生の依頼を承諾しなかった?」 「――っ!」 「それで貴様の目的に少しでも近づくのならば、貴様はその依頼を断るべきではなかった」 「だが……」 「木原幻生に貢ぐような行為が嫌だった、そう言いたいのだろう。だが、否。真実は異なる。貴様は姫神秋沙を関係ない人間だからと同情し、守ろうとしたのだ。そしてその言い訳に木原幻生への嫌悪感を持ち出そうとしているに過ぎない」 「……………」 「歴然。図星だな。それが貴様の甘さだ。関係ないから何だと言うのだ。それが貴様の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、貴様の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな。――あれもこれも守ろうなどと、愚劣にも程がある」 「……テメェに言われる筋合いなんざねぇよ」 絞り出すように呟く垣根。 しかしそれは、アウレオルスの言葉に反論できないと言っているようなものだ。 「フン。昂然。ならば我も語ってやろう」 まるで垣根のその言葉を待っていたとばかりに、アウレオルスは唇を歪める。 「我がここに来た理由、我の救出すべき女性(ひと)のことを」 「……秘密なんじゃなかったのかよ?」 拗ねるような垣根の態度に、アウレオルスはやはり余裕を持って答える。 「言ったであろう。貴様のことが、少しばかり気に入ったのだよ」 そして、アウレオルスは席を立ち、再び薬缶を沸かし始めた。 「少し長くなる、もう一度紅茶を入れよう」 「魔術、ね。どうやらカルト教団を乗っ取ったのは、テロ屋じゃなくまた別のオカルティズムだったらしい」 アウレオルスの話を聞き終えた垣根は、もはや飲むことに抵抗のなくなった三杯目の紅茶に口をつけ、そんな感想を漏らす。 「当然。貴様の反応はもっともだ。純正な科学育ちの貴様に理解しろとは言わぬ。何より、魔術だ何だなぞは些細なことだ」 「魔道書とかいう核爆弾の設計図みてーなもんを十万飛んで三千冊も頭ん中に詰め込まれ、おまけに一年間の記憶しか持つことを許されていない、禁書目録……テメェはそいつのためだけに、テメェの属していたロシア成教を、そして世界中を敵に回した」 「純然。我は禁書目録のためにここまで至った。他のあらゆることを排除し、無視し、利用し、切り捨てて。この三沢塾も、ここに通う学生たちも――そして姫神秋沙も」 「俺とは違って、か?」 「当然」 「ちっ……」 舌打ちし、しかし垣根は今聞いた話を即座に頭の中で整理し、意趣返しとばかりに一つの事実をアウレオルスに突きつける。 「だが、一つ言っとくとよ、その魔道書を記憶しているせいで一年しか記憶が保たねぇってのはイギリス清教の方便だ。そっち方面にそこまで詳しい訳じゃねぇが、確か人間の記憶のキャパってのは140年生きてても埋まりゃしねぇらしいし、そもそも脳の中の情報を記憶する部位と思い出を記憶する部位とは全然別個らしいぜ?」 「顕然。そんなことはとっくに知っている」 「あ?」 得意気に語った知識を簡単にあしらわれ、うっかり大口を開けて呆然としてしまう垣根。 「魔術師だから科学に疎いなどと思うな。何より我は錬金術師である。錬金術とは、科学と魔術の両面を持つものだ。我には化学をはじめ、自然科学の知識は十分にあるし、禁書目録を解放しようと、脳科学にも手を出した。直接最大主教の下についている必要悪の教会の魔術師どもはその言葉を疑わぬだろうが、我はもとよりあの女狐を信用していないからな。一年間しか保たない記憶など嘘であることは、とっくに気づいていた」 アウレオルスは紅茶で喉を潤し、静かに続ける。 「そして、我はその記憶の絡繰りをすでに解き明かしている。禁書目録は、一年毎に記憶をリセットする霊装――『首輪』とでも呼ぶべきものをつけられているのだ。そして、その『首輪』を破壊すれば……」 「……禁書目録は解放される」 「そしてそのための力も手に入れた。『黄金錬成(アルス=マグナ)』。この術式さえあれば、どれほど強固な術式をも破ることが出来る」 「イメージ出来んのか? その強固な術式を壊すっつーよ」 過去を話す中で語られた、アウレオルスの完成させたという術式の弱点を指摘する垣根だったが、 「明然。他の事物はいざ知らず、それが禁書目録のためであるのなら、我の思考に不可能はない」 アウレオルスはそれにしっかりと答えを返す。 その瞳は、全く揺るがない。 「成る程、な。だがそうすると一つわからねぇ。どうしてテメェは吸血鬼なんてもんを追い求める? 『首輪』を破壊すりゃいいなら、無限の記憶なんざ必要ねぇだろ」 「ならば、少し考えてみよ。例え『首輪』を破壊しても、禁書目録は依然として十万三千冊の魔道書を抱えていることに違いはない。それがある限り、禁書目録は魔道書の知識を求める輩によって危険にさらされ続けるであろう」 「確かにそうだが……いや、待てよ」 得られた情報から、学園都市第二位の頭脳は一つの結論を導き出した。 「じゃあ……まさか、テメェの本当の目的は……十万三千冊の魔道書に関する全ての知識を吸血鬼の脳味噌に移し替えること、なのか?」 「ほぅ、快然」 心なしか声を弾ませて言うアウレオルス。 「なかなか優秀だな。その通り、先程の説明は最大主教のそれと同じ方便。禁書目録を吸血鬼に噛ませる? 馬鹿を言うな。守るべきものを人外に変えるなど、出来ようはずがない。我は『首輪』を破壊した後、禁書目録から魔道書についての知識を抜き出し、吸血鬼に植え付け、それをイギリス正教に差し出すつもりだ」 「それは……」 確かにそうすれば、魔術的観点から見て禁書目録に存在価値はなくなるだろう。 禁書目録を、完全に救えるだろう。 だが―― その過程において、三沢塾の塾長らは殺された。 学生たちは、死んでは生き返りの苦痛を繰り返すことを強制された。 その結果において、禁書目録の身代わりとなった吸血鬼は、その自由を奪われることになる。 それも、不死たる吸血鬼に、終焉が訪れることは決してない。 永遠の生き地獄だ。 そして、それは姫神秋沙と交わしたという協力関係に完全に違反することでもあるのだろう。 姫神秋沙を裏切ることになるだろう。 それでも、この男は――アウレオルス=イザードは、躊躇なくそれらを行うと言う。 大衆は、おそらくそれを悪と、或いは非人間的と罵るだろう。 どこかのツンツン頭の少年は、間違いなく右の拳をアウレオルスに向かって振り下ろすだろう。 だが、垣根帝督は。 そんなアウレオルス=イザードに全く異なる感想を抱いた。 「何だそりゃ――格好いいじゃねぇかよ」 姫垣のために生きる自分と。 禁書目録のために生きるアウレオルスと。 そこには似通うところがあって、しかしアウレオルスの方がずっと高いところにいる。 長い会話の末、そのことを悟った垣根は、アウレオルスに憧憬の念さえも抱いていたのだ。 「いいな。そういうの、本当に」 「現然。ようやく我が貴様を連れてきた理由を了解したか」 「あぁ……」 垣根は椅子からゆっくりと立ち上がる。 「それが俺の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、俺の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな――その通りだ。全くもって俺は甘かった。こんなんでヒメを守ろうなんて、そのもの愚劣だった。だから……」 「だから――俺はテメェをぶっ殺すぜ」 「……ほう」 アウレオルスの目が、細くなる。 「俺の仕事は三沢塾を奪い返すこと。そして今の三沢塾の支配者はテメェ。つまりテメェは俺の道のど真ん中に胡座かいて座ってやがるってことだ。だったら、俺はテメェをぶっ殺すべきだ――それしか道は、ねぇんだからな」 テーブルから退き、いまだ座ったままのアウレオルスとの距離を測る垣根。 「俺にそのトンデモ能力……『アルス=マグナ』っつったか? その仕組みを教えちまったのは迂闊だったな。どんな能力だろうが、タネが分かっちまえばいくらでも対処のしようがあるんだよ」 ハッタリでは、ない。 本当に『アルス=マグナ』がアウレオルスの精神状態に由来するものであるのならば、相手の言葉の裏をつくこと、或いはそれこそハッタリを仕掛けることで、能力に穴を空けることは可能なはずだ。 「一応礼を言っておいてやる。説教じみててウザかったが、なかなか有意義な話だった。ありがとよ」 言い、右手に『未元物質』の剣を出現させる垣根。 (やっぱりな。もう『攻撃禁止』の命令は解けてる。『アルス=マグナ』の根幹は言葉ではなく意識。アウレオルスが自分の下した命令を意識しなくなれば効果はなくなるってことだ) 一方、アウレオルスは席から立ち上がらないまま、垣根を見据えて変わらぬ調子で言葉を紡ぐ。 「励然。礼を言うのはこちらだ。我も貴様のような、我と同じ行動原理を持つ人間に会い、話すことが出来たのは僥倖である」 「ハン、言ってろ。俺は俺の道を阻むテメェをぶっ殺す。姫神秋沙は幻生に差し出し、利用する。そしてその結果――テメェの大事な禁書目録がどうなろうが興味はねぇ」 大きく跳び、ティーテーブルの上に土足で踏み乗る垣根。 「悦然。それで良い。それが正解だ。貴様が口先だけの男ではないと分かると喜ばしい。故に――サービスだ。貴様のことは見逃してやろう」 「それがテメェの言う甘さだろうが!」 (野郎は意志を言葉にすることで強固にする。つまり一度に行える命令は一つまで!) 垣根はテーブルの上をアウレオルスの方へ向かって高速で駆ける。 「我の道はすでに終端に近いのでな。この程度の障害は誤差でしかないのだ」 「だったらその誤差にやられちまえ!」 (『武装解除』なら、素手で殴りに行く) 垣根に踏み荒らされ、倒れ、砕けるティーセット。 (『攻撃禁止』なら、防御は可能なはず。とびきり固い『未元物質』を纏ってこのスピードのままぶつかれば、ダメージは与えられる) ついにアウレオルスの目前に迫り、垣根は西洋剣を高く振り上げる。 (さぁ、どう来るっ!) 「忘れよ」 「ん?」 垣根帝督はふと、寄りかかっていた愛用のバイクから身を起こす。 「寝ちまってたのか……?」 軽く目を擦った垣根は、そこで空が僅かに赤色を帯びているのに気づいた。 「夕方かよ……おいおい、どんなけ寝てたんだ。つーか、ここどこだよ」 辺りを見回し、自分が見覚えのない区画にいることを確認する垣根。 後方の巨大なビルからは、学生らしい少年少女たちがたくさん吐き出されている。 どうやら塾か何かのようだ。 無論、垣根にはまるで縁のない場所である筈だが―― 「こんなところに用事でもあったのか俺は? つーか何も思い出せねぇ。確か午前中は幻生んとこにいたんだよな。その後は……んー? 何なんだよ、ったく。酔っ払いじゃあるまいし」 右手で頭をがしがしと掻く垣根だったが、当然そんなことで記憶が戻ったりはしない。 「あ、今日ってヒメ友達と遊びに行ってるんだよな。もうそろそろ帰ってくる時間か? やべ、買い出し行かなきゃならねぇ」 結局、垣根は違和感を抱えつつも、それを無視してバイクを発進させ、タイムセールに間に合うようスーパーに急ぐことにした。 ――それが貴様の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、貴様の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな。 頭の隅にこびりついて離れない、誰とも知れない者の声を聞きながら。 そして、 『……………………』 走り去っていく垣根のバイクを、ビルの物陰から見つめる存在があった。 それは――機械で出来た動物のような形の四足歩行型のロボットは、ゆっくりと物陰からその身を現すと、軽い身のこなしで、垣根が去っていったのとは反対方向へ駆けていった。 『記憶が消去された、のでしょうか。少なくとも、三沢塾内部で垣根帝督に何かしらの処理が行われたのは間違いありませんね。三沢塾がただのカルト教団に支配されているだけ、という確率は低いと思われます――博士』 学園都市内にある、とあるオープンカフェにて。 丸テーブルに向かい合って座る二人の男がいた。 一人はダウンジャケットを着込んだ若い男。 もう一人は白衣に眼鏡をかけた、眼光の鋭い老年の男。 白衣の男は耳に携帯電話をあてており、そこからは先ほど男を『博士』と呼んだ少年のような声が響いている。 「フン、おおかた魔術なぞというものの仕業であろうよ。アレイスターに報告すれば、後はあの『人間』が勝手に処理を進める」 『では、そのように。木原幻生の監視の方はどうしますか? 今日は垣根帝督を追っていましたが、明日からはまた私が?』 「いや、お前はそのまま垣根帝督の監視に回ってくれ。最近お前の監視が木原幻生にバレ始めている、馬場」 『えぇ、そんな感じはしていましたが……』 馬場と呼ばれた電話の向こうの声が、少し困惑した調子を見せる。 『そもそも監視していることは暗黙の了解となっていますし、今更隠すことではないのでは?』 「それはそうだが、こちらの真の目的は、監視という名目で木原幻生の研究を盗むことだ。奴に好き勝手に研究させていれば、またこちらを出し抜こうとするに決まっているからな。だが、監視されていると分かれば、下手に研究を晒さないように警戒されるかもしれん」 『それも……そうですね』 「そういうことだ。明日からは木原幻生の監視は私と査楽で行い、お前は幻生の研究対象である垣根帝督の監視に移れ」 『はい、了解です』 通話が切られ、『博士』は携帯電話を白衣のポケットにしまう。 「アレイスターも、『停滞回線』の使用を許可してくれればいいものを」 テーブルの対面に座るジャケットの男、査楽が『博士』に話しかける。 「あれは学園都市の技術の結晶だ。老いぼれ研究者の監視にはもったいなさ過ぎる」 「まぁ、ですね。そういえば今回は、『停滞回線』が侵入できない、という理由で三沢塾に垣根帝督を送り込んだんでしたっけ」 『もうその時点で、三沢塾が異界であることなんて、明白な気もしますけどね』 突如、先程の馬場の声が近場から聞こえた。 いつの間にか、四足歩行型のロボットが、『博士』の足元に陣取っている。 それを確認すると、『博士』は席から立ち上がった。 一呼吸遅れて、査楽とロボットがそれに続く。 オープンカフェを後にしながら、『メンバー』のリーダー――『博士』は、誰にともなく呟いた。 「三沢塾の件も、数日中には解決するだろう。――この街には得体の知れない技術が溢れている。逃げ切る事など出来んさ」 垣根帝督の十番勝負 第『三』戦 『アウレオルス=イザード』 対戦結果――不戦敗 次戦 対戦相手――『馬場芳郎』
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【種別】 魔術結社 【元ネタ】 Wikipedia - 黄金の夜明け団 読み方は「Stella Matutina」(ステラ・マテューティナ)? 1888年の創設から現代に至るまで、魔術やオカルトの話になると必ずと言っていいほど取り上げられる 近代西洋最大の魔術結社。 【初出】 一巻 【解説】 19世紀末、イギリスに登場した『黄金』と呼ばれる天才集団。 ヘルメス学や薔薇十字などの幾つもの遺伝子を統合し、 近代西洋魔術の雛型となった世界最大の魔術結社である。 主な拠点はイシス=ウラニア聖堂の別館やブライスロード36番地など。 創始者は好んで仏教を取り入れていた節もあったらしい。 あまりにも強大な魔術師達が集いすぎたが故に、たった数年で実質的な活動を終え、 その後の内紛で自己崩壊した。 内紛の後も名称を変更して活動を続けたが、結局分裂は避けられず、独自の魔術結社を幾つも設立して 『黄金』という組織は空中分解していった。 その絶大な存在から、1度崩壊した後も『黄金』を取り戻そうと試みた者達は何人もいた。 しかしながらいずれの者もかつての『黄金』の栄光を取り戻すどころか資料や人材すら集めきれず、 当時の面影すら残らない形で名前だけが現在まで受け継がれている。 崩壊した結社は断片化した後、独自に発展と進歩を遂げ、無秩序に分化しながら今日まで(ミナ曰く「だらだら」)存続し、 明け色の陽射し、宵闇の出口、暗闇を拭う夜明けなど、数多くの「黄金系」と呼ばれる結社が存在する。 中心教義はカバラ。これにエジプト・ギリシャ神話にタロットやエノクその他諸々を組み合わせ、 共通する神の記号や光の象徴を抽出し、本質に迫る術式群を揃えている。 『黄金』の集団で行う魔術は舞台演劇の形式に近く、 多くの者が役割を決めてそれに準じた装束や象徴武器で身を固め、規則的かつ流れるような動作でこなしていく。 複雑精緻な数式の様な儀式魔術こそが、彼らの真髄である。 メンバー一人一人が独立した伝説を持つ傑物ばかりで、 人の身でありながら、魔神の力を自らの術式に組み込んでしまえる程の魔術の技量を誇る者もいる。 といってもあくまで魔術師のため、単純な知識や力の総量は魔神と比べるべくもない。 魔神娘々曰く、どちらがどちらを喰うか、出し抜き出し抜かれ騙し騙されの関係らしい。 構成メンバーの顔ぶれは多種多様。 大地主、薬剤師、検察官、女優、天才作家など表の世界でも活躍する者から、 古文書の翻訳に走ったり怪しい仕手戦を提案する者、果ては無職や世捨て人と、人種の標本セットの様な有様だったらしい。 近代魔術の基礎を作った彼らは総じて我が強く、それでいてなお子供の部分を忘れない、 天才特有のカリスマ性を持つ変人の集まりだったようだ。 メンバーの我の強さは筋金入りであり、「人の行いが世界に遠慮するなどありえない」と言い切るほど。 たとえ自身の判断一つで世界が滅びかねない状況であっても迷わず自分の個人的感情を優先し、 それで世界がどうなろうと一向に構わない、という極大の『個の意志』が集っていた。 インデックスが上条と初めて出会った際、 自分を追っている可能性がある組織の一つとして挙げている。 また、御使堕しの際には土御門元春が「大慌てするカバラ業界」の例としても挙げ、 フィアンマが天才集団の例として『黄金』の名を出す等、業界に対する影響度は計り知れない物がある。 新約21巻で最盛期と同じ姿で全員(アラン以外)が登場。 これはアレイスター討伐のためにコロンゾンが仕込んだ防衛機構であり、 彼(彼女)らの正体は、ミナと同じくタロットカードによって再現された姿である。 「再現された」メイザースは逆にコロンゾンを支配し退去させることで自由を得る事を目論んでいたが、 その前に地脈・龍脈からの魔力供給をアレイスターに遮断され、 全員タロットカードに戻っていった。 【作中に登場した所属メンバー】(50音順) アーサー=エドワード=ウェイト アニー=エリザベス=フレデリカ=ホーニマン アラン=ベネット アレイスター=クロウリー イエイツ(未編集) イスラエル=リガルディ ウィリアム=ウィン=ウェストコット エドワード=ベリッジ(未編集) サミュエル=リデル=マグレガー=メイザース ジョン=ウィリアム=ブロディ=イネス(未編集) ダイアン=フォーチュン チャールズ=ロシャー(未編集) ネッタ=フォルナリオ(未編集) フレデリック=リー=ガードナー(未編集) ポール=フォスター=ケイス ミナ=メイザース ロバート=ウィリアム=フェルキン 仮面舞踏会の君 【関連】 →象徴武器(シンボリックウェポン) →GDタロット →四界
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HP・・・2213 熟練レベル・・・29 技能レベル・・・25 特性・・・植物 防御・・・なし 耐性・・・麻痺、眠り、暗闇、混乱、魅了、スタン、水耐性 地相・・・蒼龍 技レベル・・・27 術レベル・・・24 <基本能力> 腕・・・22 器・・・24 早・・・21 体・・・18 魔・・・19 意・・・23 魅・・・22 <防御力> 斬・・・15 打・・・23 突・・・23 貫・・・23 熱・・・6 冷・・・24 雷・・・18 状・・・18 <アイテム> 1・・・術酒 2・・・ヘリオトロープ 3・・・エーデルワイス 無刀・・・なし 所持金・・・なし